「プロダクト企画」する際、何から始めていいのか?、何が売れるのか?、なぜ売れないのか?そんな思いを抱きながら試行錯誤することもあると思います。参考となる理論およびプロダクト制作に関することを前回に引き続きお話しします。

プロダクト企画

前回、森行生氏提唱の「プロダクト・コーン理論」について説明しました。この理論は「プロダクト」自体にある構成要素にフォーカスした理論です。
「プロダクト」には当然、買い手(消費者)にベネフィットを与える必要があるのですが、ベネフィットがあるから(と売り手が思い込んでいる)といって、必ず売れるわけではありません。
同時に、「ユニーク=独自性」の必要性も前回お話ししましたが、独自性があるからといって、売れる理由にはならないのです。
もし、需要があると感じても、売れなければそのプロダクトは全く意味を成しません。
そこで、森氏が提唱する「DCCM理論」が参考になります。

こちらは、プロモーション視点でのもので、いかに市場(消費者)にアピールできるか、納得してもらえるか・・・という「プロダクト」から発信される重要な要素になるものです。

DCCM理論

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Differentiating差別性他者プロダクトとの違い
Competitive優位性他者プロダクト以上の有用性や良さ、メリット
Convincing説得性客観的で説得力のある事実やイメージ
Marketability市場性上記3点を取り入れて市場に出した時の買い手の受容度

差別性(Differentiating)

市場に商品・サービスが氾濫している現代であり、インターネット普及により膨大な情報が入手できる状況下の中で、他の商品・サービス(プロダクト)との”違い”(差別性)をアピールすることがポイントになります。

人が消費行動に至る際の「選択」あるいは「購入の決断」がストレスになっている、というのは多くの方が知っている心理学的、行動経済学的な事実です。人が物事を認知するために必要な時間は0.2秒程度と言われており、興味のないことに対しては意識にも入らないということが生理学的にも言われています。

(例えば、街中で空腹になり肉料理を食べたいと意識すれば、他のお店の情報は無視し、肉料理のお店にフォーカスして情報を仕入れます。その際の比較対象がこの「差別性」です。)
イノベーター理論による消費者タイプや個々の価値観などでそのフォーカスする観点は変わってきますが、大分類として「価格フォーカス層」「価値フォーカス層」「品質フォーカス層」がおり、どの層にアピールするのかによって、この「差別性」への取り組みは変わってくるということです。いわゆるターゲティングです。

優位性(Competitive)

「差別性」があっても「優位性」がなければ売れない時代になったということです。昔は「差別性」と「優位性」は同類扱いでしたが、近年では全く別の要素として捉える必要があります。

例えば、独特なプロダクトや匠の技のあるプロダクトが全て売れるのか、と言えばそれは疑問符であり、どんなに他のプロダクトとの “違い” があからさまであっても、買い手の心を掴むことはできません。短期的に売れたり、マスコミの影響で話題性による売上アップなどはあるかもしれませんが、それが「優位性」になるわけではないということです。

「優位性」はベネフィット的な要素も含まれますので、買い手の価値観に左右されますが、他のプロダクトよりも優良、有効、有用であること、そして買い手(消費者)がそのプロダクトのファン(リピーター客)になってくれるような関係性をもたらす核になる要素であるとも言えます。

それをどのようにアピールできるのか、ということを考えなければなりません。簡単にアピールできないとかなり難しいと思います。

説得性(Convincing)

「差別性」「優位性」の次に、市場(消費者)にアピール・宣伝する際の「説得性」が必要になります。説得というと押しつけ的な印象もありますが、大事なのは「説得」することにより「納得」あるいは「承認」「共感」してもらえるようにしなければ、「プロダクト」の提供は困難になります。ようは、「差別性」「優位性」のある「プロダクト」であっても、無言では売れないということです。

プロモーションを行なうにあたって、消費者とのコミュニケーション(視覚、聴覚、臭覚、触覚、味覚、感覚などへの伝達)が不可欠になりますので、文字や言語によるメッセージ(キャッチ、広告、CM、サイトなど)、デザイン、SP(セールス・プロモーション)での体験など、どのように伝達し、説得するのかを勘案する必要があります。そこには、既に知名度がある(ブランド化している)のか全くないのか、あるいはターゲット層として、高所得者層なのか低中所得者層なのか・・・などでも戦略は変わってきますが、大抵の場合、心理学で使われる「片面提示」「両面提示」を活用しています。

「片面提示」は、ポジティブ面のみ、メリットのみなど良い点のみを伝える方法です。「両面提示」は、それ以外のネガティブ面、デメリットなど悪い点も含め伝える方法です。(例えば、薬なら効能と副作用を伝える。高価だけど高性能を伝える。時間はかかるけど成果は大きい、など。)デメリットも消費者に伝えることで、より納得度が増します。信用してもらうためにも「事実」を伝えることです。「事実」にストーリー性が含まれると、より「説得感」は増します。この「片面提示」か「両面提示」かをその場面場面で行なうことになります。

説には、高学歴者には両面提示、低学歴者には片面提示としている方もあったり、主婦なら片面提示、サラリーマンなら両面提示としている方もあります。それに準ずる必要はなく、プロダクトの種類やターゲット層、そしてプロモーション方法などを踏まえ行ないます。

消費者と直接コミュニケーションをとる際は、心理学でいう「ブーメラン効果」(例;説得すればするほど、拒絶される反応状態など)があったりしますので、「両面提示」を行なうことが有利とされています。

市場性(Marketability)

「差別性」「優位性」「説得性」をもった「プロダクト」が、ターゲットとなる市場(マーケット)に受け入れられるのか・・・というのがこの「市場性」です。ようは、直接売り上げにつながる市場がどれだけあるのか、ということを分析することになります。

「需要と供給のバランス」を察することが必要になります。需要はあるのに供給が追いつかない場合は、効率の良い制作・供給する方法を考えれば良いと思います。逆に供給はできるけど需要が思うほど(予定ほど)ない。これはターゲットとする市場を誤っている、または戦略を間違っているなどの場合です。売上の状況を見ながらターゲット層を途中で変えることもありますが、基本的にはマーケティングにて市場を確認していくことがポイントになります。

事例ですが、「リラックマ」(サンエックス商標のキャラクター)が人気商品であることをご存知の方もいると思います。

rilakkumaリラックマ
(画像参照・サンエックスWebサイト)

この「リラックマ」は、子供をターゲットにしたのではなく、20〜30歳代の独身OLをターゲットにして市場に出てきました。OLや主婦に大人気の商品です。売れていても、ターゲット層を拡げることなく、一途に独身OLをターゲットにして成果を出し続けています。

今回の「DCCM理論」は、大企業、中小企業、零細企業・個人事業では、注力する要素が変わってきます。

大企業やブランド化している中小企業は、既に「市場性」を得ている傾向が強く、それらと競合しようと考える零細企業・個人事業なら、「市場性」以外の「差別性」「優位性」「説得性」に注力することが必要です。

他社市場のシェアを奪取するためにも、付加価値を高めることになります。

これから起業・創業する方においては、「差別性」「優位性」が高くても、「説得性」という点で、「知らない人・会社」という不利面を克服し、市場(消費者)の信頼度を得るために、自己のインナーブランド(内面)を磨くことも重要です。

市場に対して誠実に応え得る自己を体現していかなければなりません。

「DCCM理論」と「プロダクト・ライフサイクル」

「DCCM理論」は、市場の動向にも関係します。

プロダクト・ライフサイクル」で考えると、

product_lifecycle

導入期においては、「差別性」「優位性」「説得性」に注力する時期であるわけですが、成長期、成熟期においては、「優位性」を維持しながら、「市場性」を高めていくことで売上アップに繋がっていくわけです。

参入タイミングおよび他者(ライバル・競合)も見極めながら、どのように戦略を立てるのかは、この「プロダクト企画」においても重要なプロセスであるとお考えください。