ブランディングの重要性〜ブランドの役割〜
正直、『ブランディング』とは分かりづらく、面倒な活動に感じます。
ただ、『ブランディング』活動の良し悪しは成果を大きく左右します。つまり、基本を理解しておく必要があり、良い成果につながる活動は、メリットになるはずです。
ブランディングは会社・団体が行なうことではなく、“人” と “人” が行なうことです。
会社組織で働くサラリーたちは、一員としてブランディング活動を上層部から促されても、抽象的すぎるブランディングは “カタチ” だけでしかありません。社内教育でブランディングに関するプログラムはほとんどなく、営業や広告、Webサイトなどにより、宣伝することが業務となり、本質的なブランディング活動は後回しになっていると言えるのではないでしょうか。
ではなぜ、『ブランディング』の活動は必要なのか? 『ブランディング』の重要性を “ブランド” の役割から紐解きます。
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ブランドとブランディングの違い
まずは、『ブランド』と『ブランディング』の概念の違いを見極めます。
『ブランディング』は、ブランド+イング(Brand+ing)であるように、現在から未来にかけて “ブランド” の進行を表現しています。
つまり、“ブランド” とは名詞というより動詞と言えます。国語辞典では『商標』と説明していますが、各業界では “イメージ” と捉えており、人それぞれの認識に委ねられている感があります。
『ブランド』を “イメージ” という概念で捉えると、主体(自社、自己)側の “イメージ” というよりも、対象(お客、他者)側が抱く “イメージ” が、ブランドとしての位置づけに適切かどうかがポイントになると考えています。
つまり、ブランド化にするか否かは対象(お客、他者)側であり、ブランド化にさせるか否かは主体(自社、自己)側の活動如何(いかん)です。
『ブランド』とは対象側の “イメージ” 的な受容度合い、『ブランディング』とは主体側の “イメージ戦略” に基づく活動プロセスと言えます。
『ブランディング』の概念は21世紀になってから変化し、活動方法も多様化しました。インターネットやSNSなどの普及が大きな要因と考えています。
また、活動失敗による危機(赤字転落、事業閉鎖、倒産、破産など)も実際に起きている背景には、メディア報道される前にSNSなどで拡散されやすくなったこともあるでしょう。特に有名企業、有名人・著名人たちの危機は、『ブランディング』を含めたガバナンス(統治)が利いていなかったことを、明白にしたと言えます。
ブランドとは何か?
一般人には、『ブランド』という響きが気高く、高貴的なイメージを持っている感があるようです。“ラグジュアリー”(豪華さ、贅沢さ)と結びつけてしまうからでしょうか。
例えば、装飾系ならエルメスやルイヴィトン、プラダなど。自動車メーカーならメルセデス・ベンツやアウディ、レクサスなど。化粧品系ならランコムやディオール、SK−IIなど。ホテル系なら・・・。
ただ、日本国内に存在する庶民向けの商品やサービスにも『ブランド』と言えるものが数多くあります。
例えば、ビール系ならアサヒスーパードライやキリンラガービール、エビスビールなど。家電メーカーならパナソニックやソニー、シャープなど。洗濯洗剤系ならアタックやアリエール、ボールドなど。ラーメン屋なら・・・。
これらは初期からブランドだったわけではないはずです。結果的に、現代人から “認められた” ことで “ブランド化” したと言えます。つまり、「なぜ認められたのか?」「どうやって認められたのか?」「何を認められたのか?」などを探ることから、“ブランド化” のヒントが見えていきます。(←ここは大事です)
起源を辿ると、家畜に『焼印』をつけること(Brander)で自らの所有権を示したところから、他人とものとの “識別の印” として派生し、広がってきたと言われています。
20世紀は、ブランドに紐づく企業名やロゴ、商標、シンボル、商品名、パッケージのデザインなど可視化されたものを “多くの方” に広める(認知してもらう)活動が目立っていました。ライバルとなる他社や他商品との違い(差別化)を明確にするためでもあります。(←ここは基本です)
ライバルが増え、似たものが増えてくると、機能性、素材、ストーリー性(歴史や背景)などが付加され、さらに製造場所(例:シャープの亀山ブランドなど)、開発やデザインあるいは生産する人物(例:農産物の生産者名の提示、有名人の監修など)も差別化の要素となってきました。
ただ差別化が直接 “ブランド化” につながるわけではありません。そこには「価値」がなければなりません。(ブランドの価値と構造については、別ページ)
会社や団体はもちろんのこと、商売人、サラリー、アスリート、アーティスト、モデルなどの個人にとって、“ブランド化” させることは有益でしょう。そのプロセスとなる『ブランディング』活動は、重要かつ貴重と言えます。
とは言え、自分自身(個人)には関係がない・・・という方も多々います。結論的には全ての人が関与する活動と考えています。良し悪しはともかくとして‥‥。
それでは、ブランドの役割を具体的に分析しながら『ブランディング』の重要性について考えていきます。
ブランドの役割とは何か?
『ブランド化』を目指す理由は様々ですが、その役割に関しては基本的に次のようなことです。
「ブランド」の役割について、対象(お客・他者)と主体(自社・自己)の両視点があります。
対象視点の“ブランドの役割”
対象とは、ビジネス市場でいうなら需要者・顧客・消費者など、会社内や就活でいうなら経営者・人事権者・上司などを指します。
容易的(簡易的)識別の役割
お客が購入や契約する時に、意思決定の容易さは大きな役割です。
多くの情報、過剰サービスの中で一つを選択しなければならない状況下では、意思決定の時間短縮、選択のストレス軽減、色々な意味でのコスト節減などがお客にとってメリットとなりますから、自ずと簡易的に識別できる方法を人は学びます。
つまり、純粋想起、助成想起の(マインドシェア)のアップにつながります。
純粋想起とは “ブランド再生” とも呼ばれており、例えば『カップラーメンと言えば、どんな商品を思い浮かべますか?』という質問に対し、ノーヒント(リストや画像など一切ない状況)で自由に答えられること(思い起こすこと)を指します。最近の “地域ブランド” であれば、例えば『餃子の言えば、宇都宮』『お茶と言えば、宇治』『フグと言えば、下関』など。
助成想起とは “ブランド再認” とも呼ばれており、例えば『カップラーメンと言えば、どれを知っていますか?』という質問に対し、ヒント=助成(リストや画像など)の中から答えてもらうことを指します。上の純粋想起では思いつかなったことでも、ヒントにより『知っている』あるいは『思い出す』ことを導きます。
マインドシェアとは『カップラーメンなら〇〇』『カップラーメンを食べるなら〇〇』など、その人の経験や記憶から導き出しやすい想起率の高いものを指します。一番に想起するものを第一想起(トップオブマインド)と呼ばれています。
会社内であれば、『Excelでツールを作成するなら、〇〇さんが最適です!』の状態であることです。
品質保証の役割
「人はなぜ買う物にこだわりがあるのか?」という問いの答えがこれに当たると考えます。
人は経験や知識、情報、大多数の方の評価などをもとに、安心や信頼できる感情を得ることを望みます。製造元や販売元、機能や性能なども含めて、品質に関する安心と信頼の確信を持つことができます。
結果的に、『買って損した!』というリスクの回避、『これ、大丈夫かなぁ?』という不安の除去など、購入時に襲うフラストレーションの解決へつながります。
例えば、『自動車を買うならメーカーは〇〇』『〇〇の牛丼は、どのお店で食べても美味しい』『輸入品より国産品が安心』『□□の仕事に就きたいなら、〇〇大学☆☆学科を卒業すると有利』など。
会社内であれば、『〇〇さんが作ったExcelツールは、いつも素晴らしいです!』の状態であることです。
自己の理想の実現・表現の役割
「私はどうなりたいのか?」の問いに答えてくれる存在がこれに当たるのでしょう。
人には欲望やライフイメージ、ライフスタイル、あるいは価値観や嗜好性などがあります。それらを実現・表現する見本や手段を見つけた時に、同期(シンクロ)しようと行動します。一種のステータスでもあります。
例えば、シャネラー等の●●ラーと言われる人たち、アウトドアにハマる人たち、オタク系の人たち、など。
住みたい街ランキングで常に人気の街に住むこと、有名大学の卒業生になることなども自己実現の一つです。流行モノにハマる人たちも自己表現の一つと言えます。
会社内であれば、『〇〇さんが作ったExcelコンテンツが業務管理プロセスの基軸となり、社長が求めていた経営合理化にも役立っている』の状態であることです。
自己・自社視点での“ブランドの役割”
収益アップの役割
リピーター(ブランド・ロイヤルティ)が増えると同時に、口コミや評価等によって新規客の獲得が容易になり、収益(営業収益)のアップへとつながります。
さらに他者・他社とのコラボレーションや新たな開発、暖簾分けなどによって収益が増大することもあります。
コストダウンの役割
多くの方に認知され、品質などが評価されることで、宣伝・プロモーション等の宣伝広告費、人件費が削減されていきます。情報発信性、情報伝達性、情報理解性の機能が有効になることで、金銭的なコストダウンのみならず、労力・時間などの削減による心理的コストも改善されていきます。
つまり、利益アップにつながります。
※新規顧客(一見客)を獲得するコストは、リピート客コストの5倍、10倍かかると考えられている。
関係性強化による成長の役割
お客との関係性を維持していくためのあり方の責任を理解することで、信頼に応え続けるという姿勢、クレームや返品・返金等に対する丁寧な応対などの至誠によって、さらに成長・進化を促します。
ライバル(追従者)が増えていく中での自らの成長・進化は、関係性を保持するだけではなく強化することに値します。
無形資産価値の役割
事業リソースである「ヒト・モノ・カネ・情報」に続く “資産価値” とされています。
無形の資産価値として「ブランド・エクイティ」の育成により、さらなる価値向上が見込めます。
ブランド・エクイティとは、『新商品でもこの会社のものなら安心できる』『あなたが推薦(紹介)するなら信じる』の状態(強い絆)があることです。
ブランド・エクイティとは?
デイビット・アレン・アーカー氏によるブランド・エクイティの構成要素は次の5つです。
ブランド認知(Brand Visibility)
認知されている度合いを意味する。
ただ知られていることではなく、事業や商品カテゴリーが正しく認知されているのか、内容や背景なども認識されているのか、対象者との関連性が充分に認知されているか、など認知度の深みを指す。
例えば、「シャネル」というブランド名を知っている人より、「ココ・シャネル」と歴史を知っている人の方が認知度は深い。いわゆるシャネラーと言われるシャネルファンは、創設者の生き様も含めてブランドを愛している傾向が強い。
知覚品質(Trust & Perceived Quality)
対象者が認識している品質イメージを意味する。
売る側の理解する実質的な品質と、買う側の認識している品質イメージにズレが生じる場合がある。
例えば、国産牛肉のA5ランクは最高品質であることを伝えても、食べる側がA4ランクの輸入牛肉が美味しいと認識した場合、売る側の “品質” と “知覚品質” にはズレが生じ、牛肉に対する価値は食べる側ていると言える。
購買動機の優位性、識別性の強さ、想起量の順位などに影響してくる。
ブランド・ロイヤルティ(Brand Loyalty)
継続性につながる度合いを意味する。日本では「銘柄忠誠度」と訳される。
「見込み客 → 一見客 → 継続客(=リピーター)→ 固定客」という関係性段階において、中長期的に関係性を続けられるかどうかの重要な要素となる。
例えば、自動車メーカーTOYOTA(トヨタ自動車工業)の固定客は、TOYOTA自体がブランドとなっている場合、生涯を通じて(車種は変わるが)トヨタ車を買い続ける。さらに子供たちへ引き継がれると家族が固定客となる。トヨタ車の中でもクラウン系列がブランド化した場合、クラウン系列(セルシオ含む)を買い続ける固定客になる。これらはメーカーTOYOTAへの信頼、あるいはクラウン車に対する安心感が、ブランド・ロイヤルティを引き付けたと言える。
ブランド連想(Brand Associations)
ブランドに対する解釈と想起の連想、そして感情移入(例えば、愛着度)の度合いを意味する。解釈レベルとそれによる連想は人様々。
例えば、ディズニーランドへ過去に数回行った人と、年間パスポートを保有したディズニーランド通の人は、ブランド連想の度合いが大きく違う。
『マツコの知らない世界』(TBSテレビ)に出演する一般人は皆、大好きな分野において愛着・執着が強く、ブレンド連想の高い人たちと言える。
“ブランド・イメージ” と同レベルで説明されることもあるが、その先にある対象者の生活との一体感、イメージの一貫性、愛着心、特別感などにより、揺るぎない関係性を築いたものとなる。
さらに、事業範囲の拡張やアライアンスなどに大きく影響する。
他に所有権のあるブランド資産(Brand Assets)
例えば、特許や商標権などが該当する。
まとめ
このように『ブランド』としての両面の役割を見る限り、対象(お客・他者)と主体(自己・自社)両方において充分なメリットをもたらすということが言えます。
つまり、『ブランディング』は役割を果たすため、メリットをもたらすため、そして何より目的やビジョンを持って生き続けるために必要な活動と言えます。
では、具体的にどんな活動をしていかなければならないのか、別の観点から探っていきます。
主に個人を主体とする『ブランディング』になりますが、「セルフ・ブランディング」とは何か? 「ブランドを構成するもの」は何か?‥‥について考えてみましょう。