5つの整理・精算

1◇脳の整理・清算

人には、長い年月で身に付いた思考の癖、行動のパターンがある。

「脳の整理・清算」は、そこにメスを入れる。そのために、脳の特性などを知ることも必要になる。『脳の奴隷になるな。脳の支配者になれ。』を実践するためである。

ご存知の通り、脳には「意識」と「無意識」がある。

各学者による見解で、私たちの普段の生活は「意識的行動」が1パーセント~5パーセント、「無意識的行動(内蔵などの動きも含め)」が95パーセント~99パーセントと言われている。ここでは仮定として「意識的行動」が1パーセント、「無意識的行動」が99パーセントとしよう。

 エネルギー(基礎代謝ではないもの)の消費量は、無意識的行動より意識的行動の方が断然大きいとされているため、本書では意識的行動(1パーセント)にはエネルギー99パーセント(仮定)、無意識的行動(99パーセント)には1パーセント(仮定)のエネルギーが必要であるとする。

燃費のいい無意識的行動を活かす

自動車で例えると、意識的行動の燃費はリッター1キロメートル、無意識的行動の燃費はリッター99キロメートルとなる。無意識での行動は超エコなのだ。これが私たちの「習慣」による慣行的行動である。

意識的行動を続けていくことで、いつの日か意識しなくても同じ行動を繰り返す。意識的な領域で多くのエネルギーを消費していた行動が、超エコの無意識の領域で行動することができるようになる。その無意識的にできるようになることを「無意識化」または「習慣化」と言う。

問題は、その「無意識化」または「習慣化」した行動の内容である。

無意識的行動が99パーセントとするなら、普段の生活の中の無意識による行動内容が、目的・使命を果たす(自己実現する)ことに関与するものかどうかを判断することが必要であり、不要なものは必要なものに変えていくことになる。

脳科学的には、無意識の中の不要なこと、邪魔なものは捨て去ることができず、忘れるという方法になるらしい。しかしそれが大変な作業で、新たなものの「習慣化」によって邪魔なものを無意識領域の奥底に沈めることになるのだ。

脳の特性を知ることで整理・清算する

もし、目的・使命を確立していない場合、日々同じことの繰り返しになりがち。人の記憶力は時間が経つにつれ薄れていくことは誰しもが経験済みだが、新しいインプット情報を長期記憶にできない場合、結局は脳の既存記憶の無意識による行動・思考になる。つまり、毎日ほとんど変わらない脳の働きであると言える。

これが「脳の現状維持の法則」につながる。

その脳の「現状維持」の特性を活かすことになる。常に成長し得る行動を維持することで、無意識による成長行動を促すことが可能になるのだ。

これとは別に「脳の焦点の法則」という指向的メカニズムの特性がある。

人の脳は、何かに焦点を合わせて行動・思考するというものだ。複数の事柄に焦点を合わせて活動することは難しく、もしネガティブな意識が習慣である場合、ネガティブ的な言動になりやすいし、ポジティブな意識が習慣である場合はポジティブ的な活動になりやすい。

しかし、ネガティブ思考であっても、その課題(不安や不満など)を解決するという目的が発生すると、ネガティブ思考でありながら、課題解決に焦点を当てポジティブに活動することが可能となる。

指向的メカニズムは、目的や目標が定まると、脳がそれに向かって行動を促すようになっている。受験生が目標を紙に書いて壁に貼るなど可視化する方法は、脳に目標を意識させ、その達成のために何をすべきなのかを考えさせ、そのための行動を脳が始めさせるからである。

これまでの生活行動を振り返った時、どこに焦点を合わせているのか、分析する。

例えば、テレビドラマやサスペンスを視ることが好きで、毎日チェックして視聴しているとする。アイスクリームやスウィーツが大好きで冷蔵庫にストックがあり、毎日食後に食べているとする。テレビゲームが好きで家にいる間の大半がゲームをしているとする。

これらの行動は、目的・使命を果たす(自己実現の)ためのやるべきこととして焦点を合わせているのだろうか……真剣に考えなければならない。勿論これらの行為自体が悪いのではない。小説家や俳優になるためにドラマ等で勉強している、シェフやパティシエ、あるいは評論家になるために色々なスウィーツを研究している、ゲームクリエイターになるために毎日ゲームしながら模索している……などの場合は、目的・使命を果たす(自己実現の)ためのやるべき行為と言える。

ただの娯楽のためであるなら、それらの時間とエネルギー注力がムダ(過剰)になっていないのか、自己分析(セルフ・モニタリング)をしてみる必要が出てくる。

ここでも「脳の快楽を求める特性」が存在していることを理解する必要がある。

「快楽」には、短絡的快楽と長期的快楽があり、どちらを主として行動するかが大きな成長の差となる。長期的快楽を求めて「脳の焦点の法則」を活かすとすれば、目標や目的を明確に定めることがポイントになってくる。

さらに「脳の模倣の法則」という特性がある。ガブリエル・タルドの模倣の法則でも語られているように、人の脳は模倣、モノマネが好きである。この特性はとても大事なことで、幼児が両親の言動を真似て育つように、この特性は大人になっても本質は変わらない。上司・先輩や尊敬する人を真似る、プロ・専門化を真似る、流行なども誰かの真似が広がることで生じる。成功の法則で「成功者から学べ」とあるが、これは「成功者を真似ろ」ということが言える。

この脳の特性を活かすなら、理想となる人(メンターやロールモデル)を探し、その言動や姿勢、考え方などを模倣し、理想(目標)に辿り着けるよう意識していくことである。

このように脳の特性を踏まえ考えていくと、目的・使命を果たす(自己実現の)のために、何が必要で何が不要なのか、自ずと整理されていくのではないだろうか。

思い込みの整理・清算

メンタルモデル(独自の情報高速処理モデル)あるいはヒューリスティック(経験則による仮説形成法)といわれているが、これを簡単にいうと、物事を事実・存在そのものではなく、個人の思いのまま(勝手な解釈)で簡易的に記憶または判断するというもの。それは、過去の経験や知識あるいは価値観などに左右されていて、記憶の段階で、過去のデータ(知識の塊)のどこに結びつけるのか、で変わってくのだ。

例えば、イチゴやスイカを果物とするか野菜とするかは、記憶する際の結びつけ方である。つまり、同じ場面で複数の人がその事実を確認したとしても、人によって捉え方に相違が生じ、偏りがある。犯罪事件が起きた際の警察の聞き込み捜査で、犯人像が人によって違うのも、個人の持つメンタルモデルやヒューリスティックが存在するからである。

経験による記憶は、以後の行動に大きな差が生じさせる。知識の差も然り。

例えば、幼児期に犬に噛まれて怪我をした経験がある人で、犬は危険な動物であり、怖い存在であると判断する大人もいれば、愛犬を子どものように溺愛する大人もいる。魚の実物を見たことのない人は、刺身や切り身を見ても魚本体をイメージすることができないが、見た経験のある人はイメージできる。スマートフォンの有能性は、使いこなす人には理解できるが、操作が難しいと判断する人にとっては面倒な代物なのだ。

「知っていること」と「理解していること」には、知識のズレ(歪み)がある。これらもバイアス(認知バイアス)になるため、整理・清算していくことになる。

また目的・使命を果たす(自己実現)に必要な事柄であっても、(思い込みで)「そんなことは知っているよ!」と終わらせてしまうこともあり得る。これは、行動・思考を停滞させてしまう恐れがあるため、思い込みを紐解きながら整理・清算していく。

「無知の知」――知らないということを知っている自己であり続けるためには、謙虚な姿勢で脳の整理・清算を行なうことを勧める。

2◇心の整理・清算

「心の整理・清算」は、目的・使命を果たす(自己実現)を遮る、邪魔する、否定または拒否する、などの自分自身の内なるものを整理・清算することである。

「心」とは、一般的な概念・解釈が広い領域であるため、ここでは志向性(指向性)、主体性、誠実さ、真摯さ、愛情、思い(想い)、貢献、感情などに関することとする。目的・使命を果たす(自己実現の)ための核となる「心幹(心のコア)」を強固にするためには、必要なタスクになる。

「自分が好きか」「人は好きか」「人生の目的や使命は何か」「誠実かつ真摯に取り組んでいるか」「愛すること、思いやることはできるか」「誰かの役に立ちたいか」「感情をコントロールしているか(※情動はコントロールできない)」……このような問いに向き合い、応え得る自分自身を整理・清算していくことになる。これらに向き合うことを妨げようとするものが数多くあるからである。

例えば、「自信がない」「自分が嫌い」「自分にはムリ」「お金がない」「時間がない」「経験がない」「何をしていいのか分からない」……このような意識、気持ちを常に持っており、行動できない人が多い。過去の失敗が、前進・挑戦することを抑止していることもある。

逆に、「自信過剰」「自我中心(エゴ=あるがまま症候群)」「利己主義」などの人は、時にはそれが人間関係の弊害となり、うまくいかない、空回りしている……そのような状態に陥っていることもある。

自分自身に対する思い込みを「ビリーフ」と呼ぶが、それが合理(論理)的なものか非合理(非論理)的なものか、を判断しなければならない。

「自信がない」「自分が嫌い」「時間がない」などを言葉に出さなくても、行動できない人は既にそのパターンが心や脳に組み込まれ、行動しない言い訳を肯定化している。「自信がない」「自分はダメだ」といった内部の言葉(セルフ・トーク)が、脳の無意識の中で蠢(うごめ)いているため、心や表情・行動にも反映されてしまう。心と脳を正確に分けることは難しいが、影響し合っていることは間違いない。

「自信がない」「自分が嫌い」「時間がない」などは、根拠もなく非合理的であると言える。しかし、心の叫びでもある。問題は、そこから進んでいないということ。そこに向き合う必要がある。

「なぜ自信がないのか?」「なぜ自分が嫌いなのか?」「なぜ時間がないのか?」……。では、「自信を持てるようにするためにはどうすればいいのか?」「自分を好きになるためにはどうなればいいのか?」「時間を作るためには何をすればいいのか?」……このような意識の転換を行なうことで、心の整理・清算が始まる。

自分自身に誠実であることは、他人にも誠実になれる。先ずは誠実に向き合うこと。そして、今の自分自身を受け入れ、理想の自分自身も受け入れる。理想の自分を目指すために、不要なものは捨て去ろう。

3◇モノの整理・清算

「モノの整理・清算」は、身の回りの整理・整頓に関係してくる。これも、目的・使命を果たす(自己実現の)ために必要なモノなのかどうかを判断する、整理・清算(モノの取捨選択)になる。集中できないモノ、邪魔をするモノはできる限り処理、解決していく。

人は日々活動する上で、視覚、聴覚などの五感で多くのインプット情報が存在する。あまり意識していないインプットされる情報が、集中すべき活動の邪魔をする。例えば、デスクで集中したいシゴトがあるのに、趣味であるマンガ本やゲーム機、あるいは楽器などが側にある(視野に入る)と、つい手を伸ばして見たり遊んだり弾いたりしてしまう。このようなモノは、手に届かない別の部屋に置くか、クローゼットの奥に片付ける。勿論捨ててしまっても構わない。目的・使命が達成した時点で趣味の時間を増やそう、と考えることもできる。

さらに最近では、パソコンやスマホ自体が、集中できない、邪魔をするモノになっている。メールやSNS、ゲームアプリなどがある。依存している傾向が強い場合は、早急な改善が必要となる。メールやSNSなどの確認時間を決める、消音にする、時にはオフラインにするなどの徹底を図らなければならない。パソコンの背景画像やアイコンも同様で、集中できない場合はシンプルなモノに変えるなど、工夫する。

これから新しいことを始めようとする人で、まだ「決断できない」場合でも、身の回りを片付け、できる準備を少しずつ行なうと、「決断」し始める場合もある。

最も整理・清算しやすいことが、このモノの整理・清算かもしれない。ここからスタートでも構わないのだ。

4◇時間の整理・清算

「時間の整理・清算」は、時間の使い方とその内容。目的・使命を果たす(自己実現の)ための時間をどれだけ費やしたのか、ということになる。

一日24時間、1440分。一年8766時間(365日分と閏年割振分)、525,960分。睡眠時間も食事時間も入浴時間も移動時間も、全てが目的・使命を果たす(自己実現の)ために使える時間と捉える。そのように考えた時、不要な活動時間を減らす、または時間の有効活用などを模索していくことが、この時間の整理・清算ということになる。個人の仕事の内容、環境に適した時間の整理・清算を随時行なっていくこと。

時間の使い方・内容で、大きく分類すると3つ。

1.期日が迫っており、目的・使命を果たす(自己実現の)ための重要なコト

2.期日がなく、目的・使命を果たす(自己実現の)ための重要なコト

3.期日の有無関係なく、目的・使命を果たす(自己実現)には関与しないコト

3については、期日が迫っている場合は対処しないといけないが、そこでも自分自身がやるべきことなのかを判断する必要がある。期日がないコトについては、それ自体やらずに済む方法を考える。

1については、期日が迫っているため、先延ばしせず、早急に実行する。

最も重要なコトは2で、人脈作り、健康作り、知識増強、スキル磨き、自分磨きなど「自己投資」のカテゴリーになる。この時間をどれだけ費やしたのか、日が経つにつれ大きな差が生じるところである。

5◇ヒトの整理・清算

「ヒトの整理・清算」は、勇気と調整が必要となる。

これは、目的・使命を果たす(自己実現の)ために、邪魔になるヒト、依存してしまうヒト、また必要なヒトなどを整理・清算する。無視をする、喧嘩別れするような意味ではなく、距離感を離す、または保持することである。

「あなたには無理だよ」「そんな夢を追いかけるのはやめなさい」「努力したってムダ」「自己実現なんてできやしないよ」……このように、自分自身の行動に否定的なヒトが近くにいるだけで、悪いエネルギーを受けてしまうため、距離をおく。嫌いなヒトも同様、受容できないのなら会わないようにする。

仕事関係でどうしても会わなければならないヒトであるのなら、「ヒトの整理・清算」ではなく「心の整理・清算」になる。「嫌い」という思い自体がムダなコトだからである。

逆に面倒見が良過ぎて、自分の変わりに何でもやってくれそうなヒトは、楽ではあるが、自身の経験にならないことであり、成長が遅れる可能性が高い。また好きなヒトだからこそ、一緒に遊びにいったりお酒を飲んだりすることで、余計な時間を取られてしまうこともあり得る。それ自体が悪いのではなく、目的・使命を果たす(自己実現の)ために必要かどうか、という判断を主体的に行ない、調整しながら適度に付き合っていくことが必要になってくるということだ。

家族と同居している場合も同じで、仲が良過ぎること、あるいは仲が悪過ぎること、それによって集中(フォーカス)できないことが多々あるならば、距離をおくことが必要である。勿論、その前に改善の余地があれば、それが良い。

距離をおくにしても永久に距離を離すわけではなく、目的・使命を達成すれば、元に戻すこともできる。例えば、国家試験に合格するために、試験まで好きなヒトとは会わない、と決意しても、試験が終われば会える。優先するべきことを行なうためである。

悩んでしまう「ヒトの整理・清算」だが、目安となるのは、目的・使命を果たす(自己実現の)場面で、そのヒトが近くにいるかどうか、をイメージしてみる。

そのヒトは一緒に喜んでいるのか?一緒に行動しているのか?一緒に楽しんでいるのか?……など。

これまでの友達と目的・使命を果たす(自己実現の)仲間とを分類することが大切になってくる。なぜなら、ヒトは「私の人生に責任を負うヒト」ではないし、「ヒトの人生の責任を負う私」でもないからである。親子関係でも同じことが言えるだろう。

完全に整理・清算することは困難だが、自分自身のエネルギーを吸い取ってしまうようなヒトに対しては、早々にこれを行なおう。特に、自分自身の行動に根拠なく否定するヒト、愚痴や悪口ばかりのヒト、目前の快楽に誘う人である。

5つの整理・清算のまとめ

この五つの整理・清算は、整理整頓などが得意としない方は、身につけるには時間がかかるだろう。しかし、継続していくことで、その整理が早まってくる。

『人の天性は良草を生ずるか、雑草を生ずるか、いずれかである。
したがって、折をみて良草に水をやり、雑草を取り除かねばならない』
(トーマス・カーライル/英国の歴史家)

今回整理したとしても、それで終わりではない。常にインプットされる新しい情報(経験値も含め)が入ってくるため、その都度行なうことになる。

次の「志向化」「修得化」にもつながっており、「整理清算化」に関与する基準は自分自身の信念や価値観などに基づいている。それをもとに活動(経験)した中で得た情報・知識から再度整理・清算する、かつ定期的に行なう、ということになる。

初めて整理・清算を行なう場合は、必ず可視化する。用紙、あるいはパソコンなどを準備し、文字化していく。そして、できる限り集中できる場所で行なうことをお勧めする。これらは、今すぐにでも始められる。

もし「明日から」と思う人がいたら、その人は明日もやらないだろう。今日どうしてもできないのなら、明日何時に行なう!と計画することである。

これは、集中力、エネルギーの活用方法に影響するため、これらができるようになることで、人生の整理がしやすくなると言える。