コンシューマー・インサイト〜既存リサーチの限界〜
商売・ビジネスを行なう上で、リサーチ(市場調査)は重要ですが、現在の広告会社やリサーチ会社であっても、消費者の求めるニーズやウォンツを導き出すようなリサーチは難しいと言われています。これは、マスメディアからソーシャルメディアへ移行している要因も一つで、消費者の情報収集手法とコミュニケーション(人間関係)手法の変化が、さらに消費動向の複雑さをもたらしていると言えます。
そこで、重要視されていた(過去形)のが、「インサイト」です。
「インサイト」は、マーケティングでの一プロセスですが、コトバ自体は大手企業、そして広告会社や市場調査会社などで使われているもので、まだ中小企業、個人事業レベルでは浸透していないのが現状です。大手企業や広告会社の中でも解釈がまちまちで、浅いレベルの広告会社もあります。商売・ビジネスを継続していく上ではポイントになりますので、私釈も含め、参考程度に説明します。
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インサイトとは
「インサイト」は、洞察力・察知力・見識の概念です。
多くの場合、「消費者の本音を探る」という意味合いで使われています。
In-sightとすると、視野に入れる、立場に立つという意味に。
「インサイト」には、「コンシューマー・インサイト(消費者インサイト)」と「ショッパー・インサイト」がありますが、大抵の場合、「コンシューマー・インサイト(消費者インサイト)」を指していることが多く、「ショッパー・インサイト」は、店舗戦略の上で使用されているものです。
どちらにしても、消費者の動向を前提としたリサーチワークだと考えてください。
では、従来の“リサーチ”という考えでいいのでは・・・と思われてしまうのも仕方がありませんが、この「インサイト」が重視されていた背景は、結局商品・サービスが過剰に溢れている現代において、かつマスメディアからソーシャルメディアへの移行により、人の生活の多様性(嗜好、ライフスタイルなど)が複雑化されているマーケット上で、消費者のニーズ・ウォンツを探し出すには、既存のリサーチ手法による情報からでは限界があるとされていたからです。
その理由は、消費者自身が、何が欲しいのか、何が問題なのか・・・ということを、外部情報を含めて顕在的には理解していても、潜在的なところまでは理解していない・・・よって、その潜在的なニーズ・ウォンツを見出だすために必要なことが、この「インサイト」(洞察力)と言われ始めたわけです。
既存のリサーチ手法、例えば定量調査(会場調査、Web調査、アンケートなど)、定性調査(グループインタビュー、インショップインタビュー、ヒアリングなど)で、
「何が問題か」
「何を解決したいか」(悩みは何か)
「何が欲しいか」
「将来どうしたいか」・・・
などと尋ねられても、昔も今も変わらないような顕在的な応えとなり、そこから生じる解決策(マーケットイン)は、どの会社も似たようなものしか出来上がらないという結果になってしまいます。(「差別化」は多少出来ても、「差異化」は困難です)
そのために、既存リサーチ手法の限界と言われている所以です。と言っても、全く使えないわけではなく、限度があるということです。
消費者自身も気付いていないような潜在的問題、欲望(ニーズ・ウォンツ)を引き出すことが「インサイト」の目的になります。
もっと臨場的に言うと、消費者の(商品を見た時の)反応が、
「お〜、コレコレ!こんなのが(実は)欲しかっただよ。」
「これ?!・・・いいなぁ(欲しいなぁ)」
「あっ?!これ使えるかも!」
「なんか面白そう!」「なんかカワイイ!」 等々
という感じです。
この消費者の反応を、店頭(ショップ)で行なわせるように模索することが、「ショッパー・インサイト」の概念です。
消費者の購買意欲を、衝動的に起こさせるようなイメージでいて下さい。
「消費者の本音を探る」
と、広告業界、市場リサーチ会社、マーケティング業界で言われていますが、消費者の(ニーズやウォンツの)本音なんて、ちょっとやそっとでわかるはずもありません。
(心を読める超能力者だってどうだか・・・)
既存商品の問題・不満点・改善点などを理解することであれば、顕在的な意識として把握することは可能のはずです。
しかし、それではいつまで経っても、ライバル(競合他者)と変わりのない、常に競争し合うようなビジネス・商売の展開にならざるを得ないのです。
既存リサーチ(インタービュー、アンケート等)では、顕在化されているものばかりで、潜在的な本音の部分のニーズ・ウォンツを探すことは困難です。
人の潜在的な部分からニーズ・ウォンツを見出だすためには、消費者の意識的な言動(コトバや行動など)からではなく、消費者の無意識的な言動の中から探すことになります。
人が生活する上での普段の言動というのは、
意識的なものが約1%~5%と言われており、ということは、
約95%~99%は無意識的な言動になるということになります。
脳科学者A・K・プラディープ著書
にも書かれているように、
意識的な5%の言動からリサーチするマーケッターには、95%の無意識的な本音の情報は知る由もないのです。
「顕在的な問題は問題ではなく、突き詰めると別の問題が表れる」
人間の95%~99%の無意識的な言動の中から、ふとした情報(問題や悩み、ニーズやウォンツ)を入手する必要があるのです。
それが、本当の意味での「インサイト」なのでしょう。
何度も書きますが、洞察力・察知力が必要だということになります。
もし、広告会社や調査会社が、「インサイト」という言葉を使いながら、未だに従来の方法で調査・リサーチをしているようでしたら、大した結果は生じないだろうと考えることも出来ます。
誤解しないでいただきたいのは、「インサイト」は(手法ではなく)能力(ケイパビリティ)・才能だということです。
そんな中、最近ではインサイトの方法として、ソーシャルメディア活用の『MROC』をアピールする会社も出てきました。
『MROC』は、個人事業でも出来るリサーチ方法です。『MROC』については、別ページで説明しています。
インサイトからプロダクトを考える
「インサイト」は、アイデア、イノベーションに繋げることが出来る能力になります。
「インサイト」から得られたプロダクト(商品やサービス)は、消費者がその商品を店頭(ショップ)やインターネットで見かけた時に、
「何だろう、コレ?」
「これ、いいねぇ!」
と、消費者が予想もしてなかったモノ、さらに消費者の感情や気持ちを揺り動かし、消費行動させるようなモノで、いわゆる購買スイッチを押してあげるような衝動をもたらすモノと考えています。
例えば、これなんてそうでしょう。
これらは、消費者からの声で出来るような商品ではないでしょう。しかし、このようなアイデア商品を出すための能力があったと言えるわけです。
それを見つけ出すことが出来る洞察力が「インサイト」の要素、ということです。
そこから制作するモノやサービスは、ある意味「挑戦」です。フリー戦略やモニターさんによる分析、改善等も必要になってきます。
最近、大手企業では、新たな「挑戦」と「失敗」を評価基準に導入しているようです。成功のKPIではなく、失敗のKPIを参考にし、勇気ある「挑戦」を促しているわけです。
インサイトを身に付ける
では、「インサイト」を身に付けるために、どうすれば良いのでしょうか?
それは、
1)消費者を顧客として見るのではなく、「人間」として見ること
2)消費者に身になって、日常生活を送ること(普段の訓練)
3)普段から人の行動を注意して見ること
これらを日常生活の中で身に付けるしかないと思われます。
さて、「インサイト」によってプロダクトを制作出来たとしても、この時代にもう一つ、消費者を衝動的に行動させる能力が必要だとされています。
それは、「プロポジション(Proposition)」 !
「最も伝えたいこと」とされている重要なプロモーションの一つで、メッセージによる消費行動のスイッチを押す、とされるモノです。