「計画的偶発性理論」〜創発的キャリアを目指す
『計画的偶発性理論』とは、
(Planned Happenstance Theory .1999年)
個人のキャリアの約80%が「予期していない偶発的なもの」であるとし、偶然の出来事が人のキャリアに大きな影響を及ぼすと理論付けられたものです。
一般的に、
「計画された偶然の出来事(プランド ハプンスタンス)」と呼ばれており、米大学心理学部教授ジョン・D・クルンボルツ氏のチームによる調査、分析による結果により提唱されたものです。
(アメリカの社会的成功を収めた数百人のビジネスパーソンのキャリアを分析したもの)
計画的なキャリアは実際に達成していないことが多く、例えばクルンポルツ教授の発表では、18歳の時になりたかった仕事に、今就いている人はたったの2%・・・という調査結果も出たようです。
確かに、私たちにおいても学生時代になりたいと思った仕事に就いているのかと言えば、・・・少ないのかもしれません。
新卒時点では就けたとしても、継続していない現状があるのです。
ネガティブ的な転職などは別にして、ある人の出会いやある出来事、本などから情報などの機会により、新たな展開へと導かれた方が多いということになります。
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「計画された偶然の出来事」
「計画」と「偶然」は、相反するコトバではあるものの、その「偶然」を「計画的(又は意図的)」に起こそうというものです。
この理論が実際に起こる要素として・・・簡単に解説すると、
・偶発的出来事を避けないこと
=全てを計画的に実行しようとしない、固執しないこと
(柔軟性、好奇心)
・常に種まきをしておくこと
=偶発性を意図的かつ計画的に取り込む準備、努力を続けること
(主体性、積極性、行動力、持続力、探究心)
・アンテナを張り、偶然の出来事を活かし、最大限のチャンスに変えること
(洞察力、察知力、実行力、活用力、受容力、適応力)
それらを避けるのではなく、最大限に活用し、チャンスに変えること。
さらには、その偶然を積極的に作り出せるよう努力し、
キャリアデザインの力にすることが重要である。
ということです。
では、
この「計画的偶発性理論」を実践するためにどうすれば良いのか・・・
クルンポルツ教授は、
オープンマインド(開かれた心の態度・体制)であることを前提として、
次の5つのキーワードを提唱しています。
(1)好奇心 (2)持続性 (3)柔軟性
(4)楽観性 (5)冒険心
(1)好奇心・・・インプットを増やす。新しい学習機会の模索
わたしには、特殊な才能はありません。ただ、熱狂的な好奇心があるだけです。
(アルベルト・アインシュタイン)
(2)持続性・・・めげない努力。すぐに結果を求めないこと
人間は負けたら終わりなのではない。辞めたら終わりなのだ。
(リチャード・ニクソン(米国第37代大統領))
(3)柔軟性・・・既成概念にとらわれず目の前の状況を受け入れる
優柔不断は柔軟性のカギ
Indecision is the key to flexibility.
(作者不詳)
改変しえぬ計画は悪しき計画なり
(シルス/ローマ奴隷詩人)
(4)楽観性・・・困難や障害は当たり前と気楽に考える
楽観主義者はあらゆる問題の中に機会を見出す
an optimist sees the opportunity in every difficulty.
(ウィンストン・チャーチル)
(5)冒険心(リスクテーキング)・・・リスクを恐れず行動する
危険に満ちた冒険か、もしくは、無か、人生は、そのどちらかを選ぶ以外にない。
(ヘレン・ケラー)
チャンスをもたらしてくれるのは、冒険である
(ナポレオン・ボナパルト)
この5つのキーワード+オープンマインドによって、人のキャリア形成は大きく変わっていくというわけです。
この理論は
「運も実力のうち」という意味では該当しますし、
「縁を運に変える」のは自分の選択だということになります。
クルンボルツ教授は、
「計画された偶然の出来事」によるキャリア歴が既にあるはず・・・とし、自分のキャリア暦を振り返り、偶然の出来事が自分のキャリアにどのように影響したか、その出来事を自分のキャリア形成にするためにどんな行動をしたか、・・・などを考えるよう提言しています。
つまり、
その時の行動を分析し、これから実践し、それを習慣化できるなら、さらに多くの「偶然の出来事」をキャリア形成に活かすことが出来るということです。
この「偶発的な出来事」という観点で、誤解がないようにしなければならないのが、怒りや嫌気、不信などの感情によって突き動かされた場合の行動においては、自己の判断であったとしても計画や目的あるいは冒険心からほど遠い要素であり、「新たな機会の活用」というよりは、直面した出来事から逃げ出している傾向が強いということになり、本理論の「計画された偶然の出来事」には該当しづらいと考えます。
創発的キャリア
「キャリア・デザイン」は、
計画的でありながら、その場面場面において柔軟性のある姿勢でキャリアを伸ばしていくことが大事であります。ただ、そのためにも、ベースとなるキャリアは早急に身に付ける必要があり、創発的なキャリア成長を望むものと考えます。
創発とは
部分の性質の単純な総和にとどまらない特性が、全体として現れること。「発現」と類義。
自律的な要素が集積し組織化することにより、個々のふるまいを凌駕する高度で複雑な秩序やシステムが生じる現象あるいは状態。
分かりやすい例で言うと、
・「人」一人が生活するという単純なことが、多数になることで複雑な「社会」という存在が生じている現象。
・「人の脳細胞」一つ一つは個々の単純な役割をもって活動しているが、その集まりによって、複雑な「脳」という情報処理機能が働いている状態。
このような現象を、個人のキャリアで新たなものを創発させようとするものです。
一つ一つのキャリアだけでは発現しないものでも、複数のキャリアが連携し、共生し、化学反応のように変化することで、新たな展開へと進めることが可能だと思っています。
今回の「計画的偶発性理論」の実現でも、複数のキーワードとなる要素、キャリアがあってのことであり、例えば、
好奇心だけでは偶然起きた出来事をキャリアに転換できるわけではなく、その好奇心によって得られた機会を活かすキャリアなどが必要なのです。
創発的なキャリアは、予期せぬ結果を生み出すキャリアになります。ですが、
「計画的偶発性理論」と同様に何もしないで起こり得るものではないため、インプット(学習)は必然的なことであり、インプット要素の分析も必要であって、それをアウトプットすることも重要なことです。
そのためのバランスを施すためにも、「キャリア・デザイン」という考えが必要だと思われます。