セルフコントロールとは?欠如する理由は?制御資源とは?
自らの能力である「セルフコントロール」を理解し実践することは、より良い人間関係や自らの望む生活を実現・保持するためにも必要と考えています。
しかし、理想と現実との乖離(ギャップ)が実際にはあり、理想や原因さえも無視してしまうような自分自身がいるのでしたら、今後の問題・課題となっていきます。
セルフコントロール能力の欠如
「セルフコントロール」能力が欠如している人、能力が低い人は、『衝動的であり、また鈍感、脆弱、身体的、非言語的、危険志向的、近視眼的である傾向が強い』とも言われています。
最悪の場合、反社会的活動や犯罪者になる危険性も介在しているとも‥‥(ゴットフレッドソン&ハッシーによる「犯罪の基礎理論」参考)。
セルフコントロール欠如の状態をそのままにしておくことは、健康面、経済面、社会面においてマイナスであり、またストレス(フラストレーション)は積重、精神的にも不安な日々が続く可能性も否定できません。
セルフコントロールができることは、健康かつ健全である証明なのかもしれません。
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セルフコントロール(self-control)とは
一般的な「セルフコントロール」(Self-control)とは、自己制御・自己統制・自己調整・自制心の意で使われています。
次項で、意味づけの参考となる複数の定義を記述していますが、当方の考える「セルフコントロール」とは、自分自身の望む将来のビジョンや目的達成のために、自らの行動・思考・感情を、最適な状態にまで自ら制御すること、です。
また、コントロールには2つあり、1つは推進力のコントロール、1つは抑制力のコントロールです。
つまり、
と言えます。
セルフコントロールは自分自身を完璧に思い通りにすることではなく、適切かつバランスを保持するためのコントロール=制御・抑制になります。
「セルフレギュレーション」(Self-regulation)という専門用語もありますが、セルフコントロールと同義的に使われている場合が多いため、概念的に同じであるとして当方では「セルフコントロール」のワードで進めていきます。
また、「アンガー・マネジメント」と言われる “怒りのコントロール” 手法が一部では活用されています。これも「セルフコントロール」の一種です。
セルフコントロールの意味
セルフコントロールの意味を調べてみると、心理学的な意味と脳科学的な意味が混在している印象を受けます。
※セルフコントロールとは・・・
(1)自分の感情や行動を自分で制すること。克己。自制。
(出所:goo辞書より)
とあります。
『克己(こっき)』とは、“自分の感情・欲望・邪念などにうちかつこと”(goo辞書)。これを使うと、精神論的な意図もあるような感覚を覚えます。
Wikipediaでは、
誘惑や衝動に直面した際に、自己の意思で感情、思考、行動を抑制すること。直接的な外的強制力がない場面で自発的に自己の行動を統制する行動プロセスである。
(出所:Wikipedia.2021.6時点より)
セルフコントロールが効かなくなった状態を脱抑制と呼ぶ。
つまり、セルフコントロールは行動プロセス(方法や手順)を意識的に行うことと言えます。
米国心理学会(APA)の定義を確認してみます。
1)自身の行動(顕在、潜在、情動、身体機能)を指令通りにしたり、自身の衝動を抑制・抑止したりする能力。
The ability to be in command of one’s behavior (overt, covert, emotional, or physical) and to restrain or inhibit one’s impulses.
2)短期的利得が長期的損失あるいは(短期的利得以上に得られる)長期的利得と対立した場合に、長期的結果を選ぶ能力。短期的結果の選択は衝動性と呼ばれる。
In circumstances in which short-term gain is pitted against long-term greater gain, self-control is the ability to opt for the long-term outcome. Choice of the short-term outcome is called impulsiveness.
(出所:米国心理学会(APA)心理学事典.2006より)
セルフコントロールは “能力=Ability” の一種であることを指しています。
日本の青年心理学事典(2002)においては、
外的な援助や監視がない状況で、相対的に困難な目標志向的行動を自分の意思・意図に基づいて維持・遂行する過程。
と定義しているようです。
セルフコントロールに関する研究者、フロリダ州立大学の心理学科教授ロイ・F・バウマイスター氏とマーク・ムレイヴン氏によれば、
規範的に望ましい目標を達成するために、行動を抑制し、変えることである。
と定義づけしており、“目標の達成” に紐づくことを示しています。
「セルフコントロール」を日本語訳にすると、“自己制御” “自己統制” “自己調整” “自制心” などと意味づけられていますが、各々の意味を調べると微妙な違いがあるため、場面や背景、状況により使い方を変えるのは難しいかもしれません。
それらを総合的かつ多様的な概念として「セルフコントロール」を使用することが伝えやすいと考えます。
セルフコントロールは意志力?
例えば、
- ダイエットをするために、食事療法を実行する
- 健康(未病)のために、毎年健康診断を受ける
- 体力をつけるために、毎日適度な運動をする
- 子どものために、喫煙の本数を減らし、3ヶ月後に禁煙する
- 毎日の飲酒を避けるために、週2日の休肝日を決めた
- 食事のカロリーを意識しながら、バランスを取る
- 早食いしないよう、一口の咀嚼を30回以上にする
- スマホゲームは1日1時間と決めて継続中
- 寝坊しないように、2個の目覚まし時計をセットする
- 怒りたい時、10秒数えて怒りを抑える
- 衝動買いをやめ、家計簿で収支管理を始める
- 精神的安定のためにヨーガやお寺で座禅瞑想を行なう
‥‥などはセルフコントロールによる行動ですが、特徴が垣間見れます。それは、
- 自分自身の意識・意思が働いていること
- 主体性、自律性、計画性があること
- 行動の前と後で自らに良き変化をもたらすこと
です。
セルフコントロールは能力・スキルです。“意志力” とも言われていますが、複合的な能力群が必要です。例えば、想像力、企画力、分析力、注意力、選択力、決断力など。
『私は意志が弱いから!』という方もいるでしょう。
“意志が弱い” から「セルフコントロールができない」‥‥とは言いがたく、「セルフコントロールができない」のは、
- コントロールする自分とコントロールされる自分を理解していない
- セルフコントロールの方法を知らない
- セルフコントロールする理由がわからない、または無い
この3つではないかと想定しています。
つまり、これらをクリアすればセルフコントロールができるようになります。
セルフコントロールは精神論によるものではありません。
「気合いだ! 気合いだ! 気合いだ!」
のみでは、自身をコントロールすることは困難でしょう。
能力・スキルである「セルフコントロール」ができるようになれば、“意志力” は向上し、発揮されるのではないでしょうか。
セルフコントロール能力の欠如
犯罪性は別問題として、それ以外の通常生活における個人的な行動・行為にフォーカスして考えてみます。
例えば、
肥満に繋がるカロリーの過剰摂取、衝動買いやムダ使い、スマホ依存、喫煙、飲酒運転、煽り運転、パワハラやいじめ、時間にルーズ、愚痴や悪口、自己中心的、目前の快を求める行為、先延ばし行為などはセルフコントロール能力の低さがもたらす代表的なことです。
新型コロナ禍とセルフコントロール
2020年、国内で蔓延した新型コロナウィルス感染症(COVID-19)における個々人の行動にも、時間が経過するにつれて、セルフコントロール能力の高い人と低い人の差が現れました。
いわゆる「自粛」できる人できない人、「3密」を回避する人しない人、「マスク会食」できる人できない人、感染後に「療養」できる人できない人、など相反する人たちが同環境の中に混在しています。
緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が幾度も出されることで緊張感が失せ、自らを制御できなくなった人たちが多くいるのも事実です。
さらに、感染した人たちに対して侮辱したり、落書きなどで犯罪者扱いにしたり、結果的に村八分にして家族ごと転居させた地域もあります。
差別を行なった人たちのセルフコントロール能力はその時点で、ウィルス感染という不安と恐怖によって脳の判断機能を誤作動させた、と言えるのかもしれません。
その他、「自粛警察」「帰省警察」「マスク警察」「ワクチン警察」などと称される正義中毒の方々が、リアルでも活動中であることが明らかになりました。ある意味、セルフコントロール能力を間違って使っている、と言えるかもしれません。
では何故、セルフコントロール能力が低い、または欠如しているのでしょうか?
それは、
- 自我消耗(自己制御資源の枯渇)
- 後天的な特性(幼少時代からの教育、環境などによるもの)
- 他の要因
などが挙げられます。
自我消耗
心理学者ロイ・F・バウマイスター氏によれば、
セルフコントロールは自制心,意志力などとも呼ばれ,日々の生活や仕事で他者とうまくやっていくうえで欠かせない。いわば “心の筋肉” として働いていて,その筋肉に蓄えられているエネルギーが枯渇する場合もある。
(出所:日経サイエンス.2015.8より)
甘いお菓子の誘惑に抵抗するために自制心を使った人々は,その後,難しい課題に粘り強く取り組めなくなることが著者の研究で明らかになった。
訓練で筋力を強化することもできる。
バウマイスター氏は、このセルフコントロールは有限なエネルギーによるものとして、枯渇した状態を『自我消耗』(Ego depletion)と呼んでいます。
この『自我消耗』については批判的な意見もあれば、肯定的な意見などもあり、多くの方が研究・調査などを行なっています。
セルフコントロールによる『自我消耗』については、当方でも肯定している面はあります。
心的エネルギーに関して発信しており、エネルギーの減少により判断を誤ったりミスをしたり、時には自らの信用を失墜させたり人間関係を壊すほどの言動をしたり、様々な悪影響が生じることを危惧している立場です。
意志力や決断力のある立派な人物であっても疲労度合いや緊張感、ストレスなどによって、セルフコントロールを誤ることもあるでしょう。
ただ、自我消耗していることをセルフコントロールできない理由として正当化するのではなく、自我消耗に対して向き合う姿勢が必要と考えます。
つまり、『自我消耗』に対する策はつ。
- 回復する方法を知ること
- 消耗度合いを下げること
- エネルギーのキャパを増やすこと
間違った方法で行なうと、結果は最悪になることもあります。
例えば、飲酒や暴飲暴食、異性との関係など外的因子を求めることで、ストレスを解消しているようにも見えますが、これこそセルフコントロールを誤ったものとなります。
ストレスと脳疲労
脳疲労とは、“脳が疲れた状態”。
脳を使いすぎると『脳疲労』を起こし、脳内の情報処理能力が正常に機能しなくなるというものです。
医学的にいえば、脳の中の「大脳新皮質という司令塔と大脳辺縁系という大脳旧皮質の司令塔の関係性の破綻」と言うことになります。
(出所:BOOCS公式サイト脳疲労概念より)
過度なストレスや不安などにより、制御機能が落ち込んでいくと心身にて色々な症状が現れ始めます。
自身のストレスとなる因子を理解し、可能な限り回避することが不可欠です。
脳疲労による心身異常が悪化する前に、初期にて判断し、対処する必要があるわけです。
セルフコントロールと脳の関係
セルフコントロールを行う上で脳の活動は無視できません。
近年の脳科学的な研究によって、前帯状回などの前頭葉や扁桃体が、セルフコントロールにかかわることが明らかになっている。
(出所:CRN副所長_榊原洋一氏「脳と教育」にて)
勿論、ホルモンのバランスによってセルフコントロールが影響を受けると考えられています。
ストレスに対するコルチゾールとノルアドレナリンの中程度の上昇は、情動抑制に必要な認知プロセスを向上させる。また低いコルチゾールと高いノルアドレナリンは、攻撃性の増加につながり、高いコルチゾールと高いノルアドレナリンは、うつなどの個人内的な精神疾患と関連している。つまり、自己抑制能力にはコルチゾールとノルアドレナリンの濃度の高低の組み合わせも関係する。
(出所:CRN副所長_榊原洋一氏「脳と教育」にて)
脳科学者でない凡人であっても、セルフコントロールを適切に行なうためには “脳が良い状態である” こと、と認識するには難しくないはずです。
自我消耗に関わる有限のエネルギーについて、この分野では『制御資源』と称されています。
自己の制御資源
セルフコントロールを行なうために影響を与える要素の一つとして「自己の制御資源(認知資源)」があり、不足するとセルフコントロール=自己制御が困難になってしまう、と言われているものです。
この「自己制御資源」は増減する一種のエネルギー(リソース)と位置付けられています。
「制御資源とセルフコントロール」に関する実験は、様々行われています。
例えば、チョコクッキーを食べずに我慢させてタスクを行わせる実験(Baumeister)、コメディービデオを観ながら感情の表出を抑制させた後の実験(Baumeister;Vohs & Heatherton)、不一致のストループ課題に取り組ませた実験(Mead)、“eの消去” 課題にような一度形成した習慣を破棄させ新たなタスクを行わせる実験(Tice, Baumeister, Shmueli & Muraven)などにより、資源の枯渇を示しました。
最適なセルフコントロールができない人は、この制御資源が少ない可能性もあります。
別名「認知資源」と言われているように、注意力や集中力などの認知に関わる精度が落ち込んでいる状態です。今の自分自身を的確に認知(自覚)できる状態ではなかったり、周囲が見えてなかったり、会話の中身を聞き逃したりして、誤った判断をしてしまう状況が生じているわけです。
例えば、次のような場合も制御資源を減らしたことにより、コントロールを誤った可能性があります。
- 衝動買いをやめるコントロールをした後に、贅沢な食事をした
- ボランティアなど利他的な行動をした後に、余計な食材を購入した
- 友人たちが集まった環境にいることが増え、高カロリーの食事が増えた
- 自信や自尊感情が強くなった後は、自分を甘やかす行動をした
‥‥など。
この「制御資源(認知資源)」が減っても回復させることができるため、その方法を理解しておくことで、セルフコントロールを可能にする状態にすることができます。
エネルギーというものは、使えば使うほど減少していきます。減少した分を補填することもできます。つまり、回復です。
エネルギー保存の法則という理論があるように、人の心的エネルギーも増減すると考えて支障はないはずです。
ただ、エネルギーを増やすために『糖を摂る』という生理学的の対処法ではなく、“人の役に立つ” “愛する” “高い目標を持つ” “自然に囲まれる” “家族と楽しむ” など、行動によって得られるエネルギーを指しています。
その他の要因
セルフコントロールを行なうために影響を与える要素として、他にもあります。
その代表的なものが、
- モチベーション
- 欲望
- 気分
- 自信・自尊感情
- 人間関係性
などです。
“モチベーション” は、前記した「制御資源」が減少していたとしても、セルフコントロールを効果的にできるとされています。
つまり、モチベーションを維持させることでセルフコントロールを続けることが可能というわけです。
“欲望” は活動するための因子となりますが、制御資源とモチベーションよりも欲望の方が大きいものである場合、最適なセルフコントロールが困難です。
つまり、暴走する可能性があるのです。
“気分” はポジティブな気分か、ネガティブな気分かでセルフコントロールに差が生まれるという調査結果があります。
ポジティブな気分は、「制御資源」の減少の際も、目標を達成するためにセルフコントロールを効果的に働かせることができます。
“自信” “自尊感情” は、自己肯定感や有能感をアップさせることに必要です。これらが「制御資源」の減少に対して抵抗し、セルフコントロールを行うことができるようになります。
ただし、“プライド” が高くなると逆効果になり、セルフコントロールを妨げる研究結果もあります。
“人間関係性” はセルフコントロールに影響を与えます。
例えば、会社で評価されず排除されることを認識した時、セルフコントロールする必要性がなくなり、モチベーションも下がります。社会生活の中で疎外感を味わうことは、セルフコントロールを失う因子をなります。
関係性が良い場合であっても、セルフコントロール能力を低下させることもあります。他者からの良い評価によって自尊感情が高まり、モチベーションを下げてしまうというもの。また、良い関係性を継続するために、自身の印象管理(自身のイメージを悪くしないような言動を選択するなど)をすることで「制御資源」が減少し、セルフコントロールができなくなるという調査結果があります。
もし、普段からセルフコントロールができていないと思われる場合は、少しずつ改善することが望ましいということ、そのためにも、コントロールする方法と、逆にそれを妨げようとする要因などがあることを理解し、意識して対象することで、セルフコントロールを行なっていく者になれると考えられます。
参考文献など
- 制御資源が枯渇すると、なぜ自己制御は失敗するのか?(帝京大学)
- セルフ・コントロールに影響を与える先行要因の整理(金子充氏)
- セルフコントロールの概念をめぐって(藤野京子氏)
- BOOCS公式サイト
- Child Research Net
- PNAS